そんな気の子。

たけのこ、たけのこ。

めちゃくちゃお通しが出てくるお店で食べた

デイリーポータルZという面白情報サイトがあって、そのサイト説明には「役に立つことはありません」とはっきり書かれている。

 

デイリーポータルZとは :: デイリーポータルZ

 

しかしこれは嘘で、まれに役に立つことがある。居酒屋情報だ。デイリーポータルZに出てくる居酒屋情報はガチ。

 

dailyportalz.jp

 

お通しだけでお腹いっぱいになってしまう串焼き屋という記事を読み、行くしかないと思った。

 

そのお店は自由が丘デパートにある。自由が丘デパートとは昭和がそのまま残ったような絶滅危惧種的スーパー最高No.1デパートである。ディープという言葉では収まりきらない。

 

 

で、その2階の奥の方に串焼きステラはあった。

 

 

入り口にたどりつくまでにひとダンジョン終えた気分。ここはデパートなんて生易しいものではない。きれいな九龍城だ。

 

前日に予約しており、17時の開店と同時に入店。カウンター席のみのこじんまりとしたお店だ。カウンターの向こうにいるのはお店のおじいさん一人で、カウンターの角の席を案内された。

 

席にはすでにお通しが置かれており、笑ってしまった。

 

 

鎮座するお通し11品。なんとなく1品ずつわんこそば方式で提供されるものと思っていたが、予約席には最初からお通しが置かれていて、そのうえにラップがかけられている仕組みのようだ。

 

ビールを注文し、ラップをはずし、さっそくお通し11品をいただく。どのお通しも甘さ加減が絶妙で本当においしい。うまみと甘味がギュンギュンくる。お皿も含めておばあちゃんちのような安心感。

 

お通しがたくさんのお店なのだが、お通しの料金自体は安いようだ。となると追加で注文しないと申し訳ない気持ちがあるので、串焼きのAコースを注文した。1700円。それでも安い。

 

このスタイルはおせち料理のようだと思ったし、旅館の懐石料理のようだとも思った。私は少食だが小鉢であればけっこう食べられるのでこれは助かる。こういうのは色んな小鉢を少しずついただくのが行儀のよい食べ方だと思っていたが、すぐにそれは間違いだと気づく。

 

カウンターの向こう側からどんどん小鉢が追加されるのだ。11品だけでもすごいのに、これは初期配備に過ぎなかったのだ。これではすぐにテーブルが小鉢で埋まってしまう。1品ずつ確実にしとめ、テーブルから減らしていく必要がある。

 

とてもおいしいし懐かしさもあり居心地がいいのだが、そんな悠長なことを言っている場合ではない。これはおじいさんと私との戦いなのだ。優しい顔をしたおじいさんだが、明確に私を腹いっぱいにして殺しにきている(とても語弊があります。) これは絶品フードファイトなのである。

 

だいたいこちらが小鉢を2皿たいらげるごとに1皿追加されるペースである。(もちろん、追加されるのはこれまで出てきたのとは違うメニューである。) しかしこれで徐々に卓上の小鉢の数を減らすことに成功し、ようやく7皿ほどになった。

 

 

右下はまさかのトムヤムスープ。甘さと辛さとうまみがすごいコンビネーションをみせている。左はミートボール。すべての料理が人生のおいしさの過去最高値を更新している。

 

小鉢の種類は多いのだが、すごいのが、どの小鉢も違う素材で、それぞれちがうおいしさになっているということだ。いろんな種類のおいしさ。やばすぎ。

 

しかし何度も言うがこれは戦いなのである。このあとおじいさんから手羽先(めちゃうまい)が出され、ついに胃袋が「おやっ?」という反応を示す。やばい。おじいさんはにっこりしている。

 

ここで突然、おじいさんの手が止まる。休戦か?

 

......大変なことを忘れていた。私は串焼きコースを注文していたのである。「お通しだけだと安すぎてお店に悪い」という気遣いが完全にアダとなっている。そんな気遣いをしている余裕などどこにもなかったのだ。おじいさんは明らかに串焼きを仕込んでいる。そして炭火で焼き始めた。ここから8本来るらしい。

 

終わった…。と思った。

 

 

しかも一本一本の串の具がめちゃくちゃでかい。えぇ…。入店してから40分。早くも白旗の気配。それでもひとくち食べる。うまい。特に左のレバー。臭みがまったくなく外はカリカリしていて噛むとレバーのうまみがドっとでてくる。うますぎる。お腹はとっくに限界である。

 

おじいさんはこちらを見て、「なんかけっこう食べそうだと思ったけど意外に食べないね~」と言ってくる。完全に勝者の余裕。

 

隣では同じく初来店と思われるカップルの女性が、「もうお腹いっぱいなんで小鉢ストップしてください」と必死で訴えている。おじいさんは聞こえないフリをして「えっ?まだ食べられる?」とうれしそうに聞き返している。他のお客さんとは楽しそうに話しているのに、お腹がいっぱいになっていることを伝えようとするととたんにボケたふりをする。おちゃめな策士だ。私も「もうおなかいっぱいです。」といったら、「若いのにもっと食べなきゃだめだよ笑」と返される。無敵だ。

 

その後2串ほどなんとか食べて(というと失礼ですが、その2串もめちゃくちゃおいしかった)、いよいよほんとうに胃に1ミリもすき間がなくなってしまったので、勝負に出た。

 

「あの~、持ち帰ることってできますでしょうか?どれも本当においしいんですけど、おなかいっぱいで…」

 

「しょうがないね~笑」と言いながら、プラスチックのパックを出してくれて、残りの串はそこに入れてくれた。助かった~。

 

「本当はもっと小鉢を出したかったんだけど、無理そうだからねえ」

 

なんと、ほんとうはまだまだ小鉢の援軍が控えていたのだ。大敗である。

 

最後に「これなら食べられるでしょ?」と、グレープフルーツのゼリーの小鉢とシャーベットの小鉢が出てきた。お通しのデザートという意味不明の概念だが、私は私で都合がいいことにデザートは別腹なので食べる。これでおわり。大敗だけどほんとうにおいしかった。

 

と思ったら最後の最後にマーマレードのおみやげまでいただいた。容器は使い捨てのものではなく、「次来るときに持ってきてね」とのこと。絶対に次も行きます。次は前日から食事をひかえるぐらいの覚悟で、お通しマラソンを完走したい。

 

こんなにも食べて、ビールを2杯ほどいただいて、4000円ほどだった。安すぎてこわい。ひと夏のホラー。